個人識別 指静脈で瞬時に ソニー 入退出管理などに応用(日経朝刊11面)

ソニーが生体認証の分野に名乗りを上げた。とは言っても指紋認証はすでにやっていたのだが、今回は指の内部にある静脈の模様を撮像し、その違いで個人を識別する指静脈認証技術を開発した、とのこと。静脈認証は、体の内部にある静脈の模様を使うので、指紋や顔、光彩のように外部に情報をさらけ出さないことで、秘匿性が高いとされている。静脈には、指静脈のほかに、富士通が開発した手のひら静脈認証、韓国のTechshereが開発した手の甲静脈認証の3種類がある(他にもあるかもしれないが)。指静脈は日立をはじめ、いろいろなメーカが開発、製品化しているが、ソニーがその市場の成熟を見てか、ここにきて参入してきた。「mofiria(モフィリア)」と名付けたこの技術だが、日立の特許を避けるように、指を横におき、指を挟んで一方からは近赤外線照明、片方は撮像素子を配する構成である。撮像素子を外界も映し出してしまう構成は、日立サイドから、外光に弱く、耐環境性の配慮がない、と言われそうだ。経験不足からか、コストや大きさを意識しすぎたか。
そもそもソニーが指静脈を選んだのはなぜだろう。やはり作りの簡単さだろう。指を装置に接触して撮影。近赤外線で撮影。構成も単純。指の内部の静脈本数も少なく画像処理の負荷もそれほど多くない。今回の発表では、日立を意識して、認証速度の早さを謳っている。一桁違うようだ。ただ、このような認証装置は早さだけでは話にならない。認証精度も必要だ。静脈の中では静脈の本数、複雑さからすると原理的に手のひらが圧倒的だ。指静脈は指紋ほどの複雑さもない。その中で、はやいはやいと謳っていてもしょうがない。ユーザビリティの観点に立つと、ある一定以上の早さになるとその速度の違いは見えなくなる。たとえば、1秒と0.5秒の違いがどれだけ人間が感知できるだろうか。それよりも、安心して使える信頼性のひとつとして認証精度をしっかりおさえ、使い勝手を追求するほうがユーザにとってありがたい。
ソニーは、これまでに指紋認証も製品化しているが、安かろ悪かろの印象がある。今回、指静脈も安かろ悪かろにしてほしくない。巷では、指静脈は大根スティックで認証登録もでき、照合もできるとか。などなどいろいろな話が真偽にかかわらず出てくるが、このような対策も含めると、早さが命ではないだろう。このソニーの装置の作りがショボければ、先行して、いろいろ対策を打っているだろう、日立の技術陣にとってありがた迷惑だ。指静脈を一括りにされてしまうからだ。(もちろん、指静脈陣営という見方では、手のひら静脈に対抗すべく、仲間が増えた感があるだろうが)
ソリューションや使い方は大塚商会やALSOKなどに寄り添った形のようだが、ソニーとして端末だけでの商売でどれほどの売り上げを期待しているのかわからない。その中で、すでに先行する日立の技術を横目に、独自開発に拘る理由がなにかあるのか?PCや家電のリモコンに内蔵して、PCなどの付加価値を高めるためのおまけなのか。ソニーの指静脈技術開発の背景を知りたいものだ。技術的に面白さがない。